2014年に公開された『ナイトクローラー』は、ロサンゼルスの夜間に起こる犯罪や事故の映像を撮影してテレビ局に売り込むフリーランスのカメラマンを描いたサスペンス・スリラー映画です。
ダン・ギルロイの初監督作品で、主演のジェイク・ギレンホールの痩せこけた姿と狂気的な演技が話題となりました。批評家からも高い評価を受け、第87回アカデミー賞では脚本賞にノミネートされました。興行収入は5000万ドルを超え、製作費850万ドルに対して大きな利益を上げました。
記事の目次
1. 映画の主なスタッフとキャスト
- 監督・脚本:ダン・ギルロイ
- ルイス・ブルーム:ジェイク・ギレンホール(Jake Gyllenhaal)
- ニナ・ロミナ:レネ・ルッソ(Rene Russo)
- ジョー・ローダー:ビル・パクストン(Bill Paxton)
- リック:リズ・アーメッド(Riz Ahmed)
2. ストーリー紹介
ロサンゼルスで夜な夜な事件や事故の現場を撮影し、テレビ局に売り込むフリーランスの映像パパラッチ、通称ナイトクローラー。定職につかず盗品を売りさばいて生計を立てているルイス・ブルームは、ある日、高速道路で起きた事故現場で見かけたナイトクローラーに興味を持つ。
ルイスはカメラと無線機を手に入れて、自分もナイトクローラーとして活動を始め、次第にニュース番組のディレクターであるニナと取引するようになる。ルイスのナイトクローラーとして成功しようとする野心と、視聴率を取ることに執着するニナの利害があいまって、ルイスは次第に良心や倫理を無視して過激な映像を撮るようになっていく。
3. 邦題と原題の比較と解説
本作では原題もNightcrawlerで、邦題の「ナイトクローラー」も特に違いはありません。
4. 映画の見どころ
ジェイク・ギレンホールの狂気的な演技
ジェイク・ギレンホールの恐るべき怪演が見どころです。彼の演じるルイスは、自分の野望と利益のために人間性や道徳を捨てており、他人を利用や脅迫することに何の罪悪感も感じない、サイコパスですが、同時に魅力的でカリスマ性のあるキャラクターです。ジェイク・ギレンホールはこの映画のために約10キロの減量をし、目つきや話し方も変えて主人公のルイス・ブルームになりきっています。
ニュースメディアへの風刺と批判
この映画では、ニュース番組のディレクターであるニナ・ロミナが、視聴率を稼ぐために過激な映像を求めて、ルイスと取引するようになります。この映画は、「血が流れれば視聴率が上がる」というニュースメディアの倫理的な問題や、「観客が見たいものを見せる」という消費者社会の問題に対する、風刺や皮肉が込められています。
5. ストーリーや登場人物についての考察
ルイスはどうやってリックを見つけてアシスタントに採用したのか?
ルイスはナイトクローラーとして活動を始めてすぐに、助手としてリックという若者を雇います。ここでもルイスの非道っぷりが発揮されており、職がなくて困っているリックの足元を見て最低限の給料しか払わず、危険な仕事に巻き込みます。
ルイスはインターネット上の求人サイトに「Video Production News」という会社名を偽ってカメラマン募集広告を出していました。ルイスはリックを採用する理由として、彼が「経験がなくてもいい」という条件に合っていたことと、彼が「金に困っている」ということを見抜いたことを挙げています。
リックはルイスに従っているうちに、彼のやり方に疑問や不満を抱くようになりますが、ルイスは彼の意見や感情を無視します。ルイスとリックの関係は、社会的な格差や搾取を象徴おり、日本のブラック企業もこんな感じなんだろうなと思ってみていました。
ルイスの行動は犯罪にならないのか?
ルイスの行動は明らかに犯罪です。もともとルイスは社会のはみ出し者で、ナイトクローラーに興味を持つ前から、資材を盗んで売り捌く、警備員に暴行するなどの犯罪行為をしており、最初に買ったカメラと警察無線も盗んだ自転車を売って手にしたお金で購入しています。
ナイトクローラーになってからも、彼は事件や事故の現場に不法侵入したり、過激な映像を撮るために現場の証拠を改ざんしたり、警察や救急隊員の邪魔をしたりしています。ニーナに対しても恐喝に近い方法で服従させようとしたり、ライバルの車に細工をして事故を起こさせるという殺人未遂まで犯しています。
このようにして撮影した映像を買い取って放送するテレビ局の道徳観のなさ、さらにはそれを視聴率という数字を通して暗に要求している視聴者も含めて、この映画は風刺をしているのだと思います。
このようなフリーのカメラマンはアメリカで一般的な職業なのか?日本や他の国でも同じような仕事をしている人がいるのか?
このようなフリーのカメラマンはアメリカで実際に存在するようですが、さすがに近年はコンプライアンス意識の高まりもあって活動しづらくなっていると想像されます。
日本や他の国でも同じような仕事をしている人がいるかどうかは定かではありませんが、パパラッチや日本の週刊誌のカメラマンなどの職業は、ここまで過激ではないにしても、似たような職業なのかもしれません。
ルイスとニーナはどういう関係なのか?
ルイスとニーナはビジネスパートナーであり、男女の関係もあります。
しかし、彼らの関係は平等ではありません。ルイスはニーナに対して支配的であり、彼女を脅迫したり、利用したりしています。彼は自分の映像を高く売るために、ニーナに対して独占契約を結ばせたり、身体の関係を要求したりしています。
彼はニーナに対して「好きだ」と言っていますが、それは本当の愛情ではなく、自分の利益のために彼女をコントロールするための手段です。
ニーナはルイスに対して恐怖や嫌悪を感じながらも、彼の映像が視聴率を上げることに期待しており、彼女は自分のキャリアや地位を守るために、ルイスの要求に従っています。彼らは互いに利用し合っている関係なのです。
6. 映画の評価
★★★★☆(星4つ)
本作は、現代社会におけるメディアや消費者の問題を鋭く描き出しており、観客に伝えるメッセージが明確です。もちろん映画なので脚色は入っているとは思いますが、ジェイク・ギレンホールの演技や夜のロサンゼルスの街、事件や事故の現場を生々しく描く映像のリアリティは衝撃的で、尺の長さを感じさせない映画になっています。