ディープ・シネマ・インサイト

映画の見どころとストーリーの考察を日々の鑑賞記録として綴るブログ

『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』Tropa de Elite 2: O Inimigo Agora é Outro

『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』は、2010 年のブラジルのアクション スリラー映画です。2007 年に公開された『エリート スクワッド』の続編で、ブラジルのリオデジャネイロを舞台に、特殊部隊BOPEの元隊長ナシメントが、腐敗した政治と警察の闇に挑むアクション・スリラー映画です。

続編となる今作も批評家から絶賛され、ブラジル国内で歴代最高の興行収入を記録しました。最終的にノミネートは逃しましたが、第84回アカデミー賞外国語映画賞にブラジル代表として出品されました。

 

 

 

 

記事の目次

 

 

1. 映画の主なスタッフとキャスト

  • 製作・監督:ジョゼ・パジーリャ(José Padilha)
  • ロベルト・ナシメント:ヴァグネル・モーラ(Wagner Moura)
  • ディオゴ・フラガ:イランジール・サントス(Irandhir Santos)
  • アンドレ・マチアス:アンドレ・ハミロ(André Ramiro)
  • コマンダンテ・ファビオ:ミリェム・コルタス(Milhem Cortaz)
  • ロシャ:サンドロ・ロシャ(Sandro Rocha)
  • ロザーネ:マリア・ヒベイロ(Maria Ribeiro)

 

2. ストーリー紹介

前作から9年後、BOPE隊長となったナシメントは刑務所で起きた暴動を鎮圧するために出動しますが、部下であるマチアスが暴動主導者のベイラダを射殺してしまう。一度は左遷させられそうになったナシメントが、世論の人気に支えられ公安局の次官に任命されます。ナシメントはBOPEを拡大して麻薬組織を壊滅させるものの、その代わりに汚職警官ロシャが率いる民兵組織が台頭し、政治家とも癒着して麻薬組織よりも強大な腐敗システムができてしまいます。ナシメントは、元妻ロザーネの再婚相手で人権活動家で州議会議員のフラガと敵対しながらも、やがては協力し合いながら悪のシステムに立ち向かいます。

 

3. 邦題と原題の比較と解説

ブラジルの映画なので原題はポルトガル語で「Tropa de Elite 2: O Inimigo Agora é Outro」で、「エリート部隊2:今の敵は別のもの」という意味です。BOPEは当初麻薬組織の壊滅のために戦っていましたが、麻薬組織が一掃されたら今度は麻薬組織から賄賂をもらうことができなくなった汚職警官や消防士が民兵組織を作り、まさに『別の敵』の台頭を招いたことを表しています。

原題は映画のテーマをうまく表現しており、一方で邦題の『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』は分かりやすいものの、あまりにも安直で深みがないと感じます。

ちなみに英語のタイトルは『Elite Squad: The Enemy Within』(エリート部隊:内なる敵)となっており、こちらも現代とは少しニュアンスが異なるものの、邦題よりは原題に近いタイトルになっています。

 

4. 映画の見どころ

ヴァグネル・モーラの迫真の演技

ナシメント役のヴァグネル・モーラは、腐敗した治安組織に振り回されたり命を狙われる身の危険に会いながらも、自分の信念を貫く姿を見事に演じています。また前作のあとに離別した家族との関わり、元妻と再婚したフラガとの関係など、複雑な人間関係についても繊細に演じています。

ちなみにヴァグネル・モーラはNetflixオリジナルドラマの『ナルコス』でコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバル役といった今作とは真逆の役を演じています。また本作の監督であるジョゼ・パジーリャも『ナルコス』の製作者に名を連ねており、いくつかのエピソードを監督もしています。

 

リアリティのあるシーンの数々

ブラジルの実態を知っているわけではないので本当にリアルかどうかは分かりませんが、BOPEや民兵組織が繰り広げる銃撃戦などのアクションシーンは、迫力満点である一方、麻薬組織の様子だけでなく、治安組織や政治家の腐敗なども細かく描写差r手織り、リアリティを感じます。

 

社会的なメッセージ

この映画はブラジルの社会問題や政治問題を赤裸々に描いています。普通に考えたら犯罪組織である麻薬組織を壊滅させたら犯罪が減ってめでたしめでたしとなるはずなのですが、それが逆にさらに強大な腐敗システムを生み出してしまうという点で、ブラジルの汚職や貧困などの根の深さなど現実に起きている問題を鋭く描いています。

 

5. ストーリーや登場人物についての考察

本作は実話なのか?

本作に登場する「BOPE(ボッピ)」は実在するリオデジャネイロ州の特殊部隊です。映画はBOPEの元隊員であるロドリゴ・ピメンテルの著書『Elite da Tropa』を原作としており、実際の登場人物や事件はフィクションではあるものの、実話に基づく半フィクションといったところです。

原作者のロドリゴ・ピメンテルはナシメントのモデルともいわれており、また当映画でナシメントがレストランで民衆に拍手喝采を浴びるシーンで、レストラン客の一人としてカメオ出演しています。

またフラガも、実在のリオデジャネイロ州下院議員マルセロ・フレイショがモデルになっており、フラガが教室で講義をしているシーンでは本物のマルセロ・フライショがカメオ出演して最前列に座っています。

本作はブラジル都市犯罪3部作の最終作

ホセ・パジーリャ監督は、この映画がブラジルの主要都市における都市暴力を描いた三部作の最終作であるとインタビューで述べています。 最初の作品である『バス 174』(2002 年)は国家が貧困問題に無関心であることが暴力犯罪につながっていること、2作目の『エリート・スクワッド』(2007年)では国家が治安維持期間に無関心であることが警官による暴力や汚職を引き起こすこと、そして最後の映画では国家が貧困と治安維持機関の問題を無視するとどうなるかが描かれています。

 

6. 映画の評価

★★★★☆(星4つ)

ブラジル映画は同じくブラジルの犯罪・貧困を描いた『シティ・オブ・ゴッド』しか見たことがありませんが、正直な感想としては、ブラジルでこんなに質の高い映画が作ら得れているのか、という感想でした。

ブラジル本国でも大ヒットしたとのことですが、本作が単なるアクション映画やスリラー映画としてではなく、ブラジル社会の現実の社会問題や矛盾を赤裸々に描いている点も含めて評価されているのだと思っています。

重たいテーマを描きつつ、アクションやスリラー、登場人物の描写なども丁寧で、ドラマとしても楽しめる良作だと思います。